東京高等裁判所 平成元年(ラ)435号 判決
当裁判所は、当審における抗告人の申立の理由を合わせて考えても、相手方製品が本件発明の技術的範囲に属しないものであり、相手方製品が本件発明の技術的範囲に属することを前提とする抗告人の本件仮処分申請は理由がないと判断するものであるが、その理由は、次のとおり当審における抗告人の申立の理由に対する判断を付加するほか、原決定の「第二 当裁判所の判断」の項のとおりであるからこれを引用する。
1 本件発明の特徴について
抗告人は、原決定八丁表一〇行ないし同丁裏七行記載の本件発明の特徴を、相手方製品はすべて備えている旨主張するので判断する。
原決定添付の本件公報によれば、本件明細書には、本件発明の「裏当タイル」について、次の記載があることが認められる。
(1) スクリユー・コンベヤに熔接可能の金属でつくられた既製の裏当タイルと、該裏当タイルに接着される既製の耐摩耗部材とよりなる各組合せ部品を、スクリユー・コンベヤと該部品の裏当タイルの熔接によりスクリユー・コンベヤの末端面に螺旋状に一連に固着して、」(特許請求の範囲。一欄三一行ないし三六行)
(2) 本発明は既製裏当用成型金属部品(裏当タイルと以下略称する)に対して既製の耐摩耗抵抗材料を接着し、その後金属性スクリユー・コンベヤの作用端にその組合せ部品の裏当タイルを熔接することにより、前述の困難さと不満足な条件とを克服したものである。(三欄一六行ないし二一行)
(3) 組合せ部品32が、スクリユー・フライト26に組合せる前に望ましくは自動的に調節された蝋付技術により、耐摩耗部材42を裏当タイル40に接着させて前以て組合されていることが本発明の特徴である。(八欄三一行ないし三五行)
右の記載によれば、本件発明は、「既製の裏当タイルと、該裏当タイルに接着される既製の耐摩耗部材とよりなる各組合せ部品」が存在すること及びその組合せ部品を「スクリユー・コンベヤと該部品の裏当タイルとの熔接によりスクリユー・コンベヤの末端面に・・・固着」するという取付手段を採ることが構成要件とされること、したがつて、本件発明の「裏当タイル」は、裏当タイルがスクリユー・コンベヤに熔接により固着される前に耐摩耗部材と接着されるものであることが認められる。
一方、相手方製品の構造を表したものである原決定別紙目録によれば、同目録には次の記載があることが認められる。
「第5図において、WC焼結チツプ60は裏金61の先端部に蝋付等で接着されている。端面部止金63はスクリユー・コンベヤ26の端面部26aに溶接部45により取付けられ、平面部止金62はスクリユー・コンベヤ26の平面部26bに溶接部44により取付けられている。裏金61は、裏面の上部段差部において端面部止金63により係止され、下端段差部において平面部止金62により係止され、裏面をコンベヤ26(「コンベヤ26」は誤記と認める。)に当接し、二つの止金62、63とスクリユー・コンベヤ平面部26bとの間に嵌合された状態で取付けられている。」
右記載によれば、相手方製品において、裏金61は、裏金61がスクリユー・コンベヤに取付けられる前にWC焼結チツプ60と接着されているものであること、平面部止金62、端面部止金63は、いずれもスクリユー・コンベヤ26に溶接により固着される前にWC焼結チツプ60と接着されていないものであることが認められる。
以上認定事実によれば、本件発明の裏当タイルはスクリユー・コンベヤに溶接により固着される前に耐摩耗部材と接着されているものであるのに対し、相手方製品の「平面部止金及び端面部止金」は、いずれもスクリユー・コンベヤに溶接される前にWC焼結チツプと接着されていないものであるから、本件発明の「裏当タイル」と相手方製品の「平面部止金及び端面部止金」とは異なるというべきであり、相手方製品の「平面部止金及び端面部止金」は本件発明の「裏当タイル」に該当するということはできない。
また、前記認定事実によれば、本件発明と相手方製品とは、スクリユー・コンベヤの末端面に耐摩耗部材を取り付けることによつてスクリユー・コンベヤの表面の摩耗を防ぐ構成を採つた点で共通しているとしても、右の取付け手段として、本件発明は、スクリユー・コンベヤと耐摩耗部材との間に裏当タイルを介在させ、予め耐摩耗部材に接着させた裏当タイルとスクリユー・コンベヤの末端面とを溶接する構成を採用しているのに対し、相手方製品は、スクリユー・コンベヤと耐摩耗部材(相手方製品のWC焼結チツプが本件発明の耐摩耗部材に対応することは原決定のとおり。)との間に裏金を介在させ、予め耐摩耗部材に接着させた裏金をスクリユー・コンベヤに当接させ、スクリユー・コンベヤに溶接された平面部止金及び端面部止金により取付ける構成を採用していることが認められる。
そうすると、右取付け手段において本件発明と相手方製品とは構成を異にしているといわなければならない。
以上のとおり、相手方製品は本件発明の特徴をすべて備えているということはできないから、抗告人の右主張は採用できない。
2 材質について
抗告人は、「相手方製品は、裏金61も端面部止金63も平面部止金62も全部ステンレス・スチール製である。したがつて、本件発明の「裏当タイル」と相手方製品の裏金61・端面部止金63・平面部止金62はいずれも同質材料たるステンレス・スチールで作られている旨主張する。
しかし、前記本件公報によれば、本件明細書の特許請求の範囲には「金属製スクリユー・コンベヤ・・・(中略)・・・に熔接可能の金属でつくられた既製の裏当タイル」との記載があり、本件明細書の発明の詳細な説明の欄には「今の所スクリユー・フライト26と裏当タイル40はステンレス・スチールで作られることが望ましく、」(六欄三行ないし五行)、「裏当タイル40とスクリユー・フライト26は、同じステンレス・スチール又は合金スチール材でつくられることが望ましい。」(九欄五行ないし七行)との記載があることが認められるから、本件発明の「裏当タイル」はステンレス・スチール製のものを含むものであり、相手方製品の裏金61、端面部止金63及び平面部止金62がステンレス・スチール製であるとすれば、本件発明の「裏当タイル」と相手方製品の三つの部材は材質の点では一致することになるが、そのことのみでは相手方製品の三つの部材が本件発明の「裏当タイル」に該当するとはいえない。
3 裏当タイルの鍔について
抗告人は、相手方製品の端面部止金63は裏金61の軸方向に延びており、スクリユー・コンベヤの端面部26aに溶接部45により取付けられており、本件発明と相手方製品とを対比すると、本件発明の鍔46は裏当タイル40と一体であるのに対して、相手方製品では裏金61と端面部止金63が別体である点が異なるだけであつて、本件発明の鍔46と相手方製品の端面部止金63とは形状が酷似しており、その機能も同一である旨主張する。
しかし、前記本件公報によれば、本件明細書の特許請求の範囲には裏当タイルの軸方向に延びた鍔について記載がないことが認められる。そうすると、抗告人の右主張は、本件明細書の特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるというべきであるから採用できない。
4 裏当タイルの低部について
抗告人は、本件発明の裏当タイルの下方内端に「低部」(五欄三五行)が形成されているのに対して、相手方製品の平面部止金62はスクリユー・コンベヤの平面部26bに溶接部44により取付けられており、両者は一体か別体かの相異があるだけで、両者の形状は酷似しており、その機能も同一である旨主張する。
しかし、前記本件公報によれば、本件明細書の特許請求の範囲には、裏当タイルの低部について記載がないことが認められる。そうすると、抗告人の右主張は、本件明細書の特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるというべきであるから採用できない。
5 全体の形状について
相手方製品の裏金61、平面部止金62及び端面部止金63の三つの部材が合体した輪郭は本件発明の裏当タイル40の輪郭に酷似している旨主張する。
しかし、前記本件公報によれば、本件明細書の特許請求の範囲には、裏当タイルの輪郭について記載がないことが認められる。そうすると、抗告人の右主張は、本件明細書の特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるというべきであるから採用できない。
6 抗告人は、「ステンレスと耐摩耗部材とをろう付けした後に冷却により収縮が起きると、耐摩耗部材の収縮量よりもステンレスの収縮量の方が大きいから、耐摩耗部材に反りやひび割れが生じる。そのような反りやひび割れを防ぐ対策のひとつはろう材の間に薄い銅板を入れることである。ろう材の間に入れた銅板は延性に富んでおり、銅板の有する延伸性によつて冷却時の収縮量の相違は吸収されるから、ステンレスがフエライト系であつても、オーステナイト系であつても、耐摩耗部材に反りやひび割れが生じるおそれはない。ことさら、相手方製品の裏金61だけを耐食性の劣るフエライト系にすることは実際の技術上の観点からみて有害無益である。」旨主張する。
しかしながら、まず、裏金にオーステナイト系ステンレスを用いた場合と、裏金にフエライト系ステンレスを用いた場合とを対比すると、疎乙第二号証(「金属データブツク」)一一六頁1・3・3の表並びに疎乙第四号証(「溶接工学」)二二〇頁及び二二六頁によると、これらのステンレススチールの平均線膨張係数(〇~五三八℃平均)は、
18-8 (オーステナイト系ステンレス) 18.4×10-6/K
18-Cr (フエライト系ステンレス) 11.2×10-6/K
であること認められる。これに対し、疎乙第三号証(「超硬合金と焼結硬質材料」)一一四頁表1・17によると、WC焼結チツプ60に用いられている超硬合金の熱膨張係数は、組成がWC一〇〇パーセントのものでは5.7~7.2×10-6/℃(単位は/Kと同じであることは技術常識に属する。以下同じ。)、WC八五パーセント、Co一五パーセントのものでは6×10-6/℃であり、両者を総合してみると、約6×10-6/℃であることが認められる。
そうすると、超硬合金とオーステナイト系ステンレスの熱膨張係数の差は約12×10-6/Kであるのに対し、超硬合金とフエライト系ステンレスの熱膨張係数の差は約5×10-6/Kで前者の半分以下である。そうすると、WC焼結チツプを裏金にろう付けする場合、オーステナイト系ステンレスよりもフエライト系ステンレスの方が冷却時の収縮差による反りやひび割れを防ぐ上で優れているということができる。したがつて、相手方製品の裏金にフエライト系ステンレスを用いたことは、WC焼結チツプを裏金にろう付けする際、冷却時のWC焼結チツプに反りやひび割れをよく防ぐという作用効果を奏するものであるから、技術的意義があるものである。
したがつて、相手方製品の裏金にフエライト系ステンレスを用いた上に更にWC焼結チツプとの間に銅板を入れた場合(相手方の第七回準備書面参照)、相手方製品は、本件発明のように裏金にオーステナイト系ステンレスを用いた上に更に耐摩耗部材との間に銅板を入れた場合よりも冷却時にWC焼結チツプに反りやひび割れが生じるのをよく防ぐことができることは前記理由により明らかである。
更に、スクリユー・コンベヤに比べ裏金は消耗品であることは記録上明らかであり、したがつてその交換までの間機能を維持できる材質であれば多少の腐食は許容されると解されるから、冷却時にWC焼結チツプに反りやひび割れが生じるのをよく防ぐことができることを考慮して、相手方製品の裏金だけを耐食性の劣るフエライト系ステンレスにすることが有害無益であるということはできない。
よつて、抗告人の前記主張は採用できない。
7 予備的主張について
抗告人は、仮に相手方製品が原決定一〇丁表三行ないし同裏三行記載の効果を奏することが認められるとしても、相手方製品は本件発明を「利用」(特許法七二条)しなければ実施をすることができないものであるから、本件特許権を侵害するものであることに変わりはない旨主張する。
しかし、相手方製品は、本件発明の構成要件である「スクリユー・コンベヤ26と該組み合わせ部品32の裏当タイル40との溶接によりスクリユー・コンベヤ26の末端面に螺旋状に一連に固着して、スクリユー・コンベヤ26の末端面に耐摩耗表面を形成した」点を充足しないことは以上述べたところから明らかである。そうすると、相手方製品は、本件発明の構成要件の重要な部分を具備していないから、本件発明の利用にも該当しないといわなければならない。
よつて、抗告人の右主張も採用できない。
四 よつて、本件抗告を棄却することとする。
〔編注〕本決定は左の抗告理由に対する決定である。
一、原決定の取消事由
(一) 原決定の理由に次のとおり述べられている。
「債務者物件の構造(三)においては、裏金61、平面部止金62及び端面部止金63の三つの部材を設け、裏金61はWC焼結チツプ60と蝋付するだけで、スクリユー・コンベヤ26とは直接溶接しないことにし、平面部止金62及び端面部止金63はスクリユー・コンベヤ26と直接溶接するための部材として、耐摩耗部材たるWC焼結チツプ60と直接蝋付しないこととしたという構成を採つているところ、前記(二)のとおり、本件発明の構成要件(三)における裏当タイル40は、耐摩耗部材と接着され、かつスクリユー・コンベヤ26と溶接によつて固着される一つの部材であり、この点において両者は、構成を異にするものといわざるをえない。」(原決定の第九丁表五行以下)
抗告人は右の認定に対して、次の理由により承服できない。
<1> 本件発明の特徴
「(一) 本件発明の出願前の技術及びその問題点に関し、本件明細書中の発明の詳細な説明には次のような趣旨の記載がある。
(1) 遠心分離機製造の技術及び摩耗抵抗表面を備える技術は良く発達しているものの、以下のとおり、遠心分離機のスクリユー・コンベヤ表面の急速な摩耗の問題が残つている。
(2) 溶接によつて堅い表面を盛り上げるという従来用いられた表面加工法は、最良の摩耗抵抗を有する材料で盛り上げても、盛り上げる厚さが増大すると盛り上げられた材料がひび割れ、砕けあるいは接着性の喪失を起す傾向があるので、満足な方法とはいえず、一方、多層の溶接をすれば、それだけ余計な熱入力を必要とするため、合金をなまし、その合金の全耐摩耗抵抗を減ずるだけではなく、基礎金属に対する接着性をも減ずることになる。また、この方法では、耐摩耗表面の粗さ、形及び厚さが均一にならないことという問題があるため、摩耗性粒子によつて耐摩耗表面に加えられる局部単位圧力が異常に高くなり、そのために、均一な厚さと滑らかな表面について経験されるよりは更に大きな摩耗度を生ずることとなる。
(3) スクリユー・コンベヤの作用端に沿つて予め成型された耐摩耗部材を固着する試みは以前から行なわれてきたところ、そのうちこの部材がボルトやその他の機械的な方式によつて取付けられた場合には、スクリユー・コンベヤが高速で回転する際に動的不均衡が経験され、更にこの耐摩耗部材は、運転中に、損耗の激しい組立部から剥離し、周囲の部分に損傷を与え、回転筒の強い不均衡を起こす原因となる可能性がある。また、既成の耐摩耗部材を直接スクリユー・コンベヤの作用端の側面に蝋付あるいは溶接する試みも行なわれたが、これは広域にわたる高熱入力が時にスクリユー・コンベヤの重大な曲りの原因となり、その部分の完全な接着を真に保証することができず、満足なものといえなかつた。そして、遠心分離機スクリユー・コンベヤが高速で作動する場合に、部材とスクリユー・コンベヤ間の接着が不完全であれば破損し、周囲の部分を損傷して故障を起す可能性があり、修理をするには広域に大量の熱を使用することが要求され、この隣接する部材の接着に悪影響を及ぼすので、このようなスクリユー・コンベヤの代替部材をもとの位置に溶接または蝋付することによつて修理することは困難である。」(以上、原決定の第六丁表左から三行~第八丁表八行の記載を引用した。)
本件発明の特徴は次のとおりである。
「本件発明は、まず、スクリユー・コンベヤの末端面に耐摩耗部材を取り付けることによつて、スクリユー・コンベヤ表面の摩耗を防ぐ構成を採つたこと、右の取付けにあたつて、スクリユー・コンベヤと耐摩耗部材の間に裏当タイルを介在させ、予め耐摩耗部材に接着させた裏当タイルとスクリユー・コンベヤの末端面とを溶接することを特徴とし、このことによつて右(一)の問題点の解決を図るものとして出願されたものである」(以上、原決定の第八丁表左から二行~同丁裏七行の記載を引用した)
債務者製品は右に述べた本件発明の特徴をすべて備えている。
<2> 材質
本件発明の裏当タイルの材質について、本件特許公報(疎甲第一号証)に、「スクリユー・コンベヤと同じ金属を使つた裏当タイル」(第3欄30行~31行)、「裏当タイル40はステンレス・スチールで作られることが望ましく」(第6欄4行~5行)「勿論、裏当タイル40とスクリユー・フライト26は、同じステンレス・スチールまたは合金スチール材でつくられることが望ましい。そうすれば最終熔接作業は容易に行うことができ、強力で持久性のある熔接が確実に得られる。」(第9欄5行~9行)、「既製の裏当タイル40は、コンベヤ18と同金属であることが望ましい」(第9欄19行~20行)と記載されているとおり、ステンレス・スチール製であることが望ましい。
債務者製品は、裏金61も端面部止金63も平面部止金62も全部ステンレス・スチール製である。
従つて、本件発明の「裏当タイル」と債務者製品の裏金61・端面部止金63、平面部止金62はいずれも同質材料たるステンレス・スチールで作られている。
<3> 裏当タイルの鍔
本件発明の裏当タイルの鍔について本件特許公報(疎甲第一号証)に次のとおり記載されている。「裏当タイル40の軸方向に延びた鍔46」(第5欄38行~39行)、「鍔46は回転筒の固形物排出端すなわち傾斜端14に対して逆方向に伸びている。」(第5欄39行~41行)、「裏当タイル上に鍔を設ければコンベヤに対し組合せ部品を位置付けし固着するのに役立つ。」(第4欄1行~2行)
これに対して、債務者製品の端面部止金63は裏金61の軸方向に延びており、スクリユー・コンベヤの端面部26aに熔接部45により取付けられている。
本件発明と債務者製品とを対比すると、本件発明の鍔46は裏当タイル40と一体であるのに対して、債務者製品では裏金61と端面部止金63が別体である点が異なるだけであつて、本件発明の鍔46と債務者製品の端面部止金63とは形状が酷似しており、その機能も同一である。
<4> 裏当タイルの低部
本件発明の裏当タイルの下方内端に「低部」(第5欄35行)が形成されているのに対して、債務者製品の平面部止金62はスクリユー・コンベヤの平面部26bに熔接部44により取付けられており、両者は一体か別体かの相異があるだけで、両者の形状は酷似しており、その機能も同一である。
<5> 全体の形状
債務者製品の裏金41、平面部止金62及び端面部止金63の三つの部材が合体した輪郭は本件発明の裏当タイル40の輪郭に酷似している。
債務者物件が、物理的に、裏金61、平面部止金62及び端面部止金63の三つの部材に分割されていることははじめから判つていることであるが、それにもかかわらず、右に述べた<1>ないし<5>の理由により、債務者物件の裏金61、平面部止金62及び端面部止金63の三つの部材は本件発明の「裏当タイル」(疎甲第一号証第1欄34~35行)に該当するといわざるを得ない。
原決定は右<1>ないし<5>の諸点についての判断を遺脱して、両者は構成を異にするとしたのであるから、その結論に承服できない。
(二) 原決定の理由に、「別紙目録の記載及び疎明資料によれば、裏金61は、WC焼結チツプ60と蝋付される際の熱による収縮を少なくするため、熱膨張率の小さいもの(例えばフエライト系ステンレス)を使用することが望ましいが、これは溶接性、耐食性の点で劣るため、スクリユー・コンベヤ26に直接溶接しない方が望ましいこと、また、平面部止金62及び端面部止金63は、WC焼結チツプ60と直接蝋付されず、スクリユー・コンベヤ26と溶接するものであるため、熱膨張率は大きくても溶接性・耐食性に勝るもの(例えばオーステナイト系ステンレス)を使用することができることが一応認められる。」(原決定の第十丁表三行以下)と述べられているが、次の理由により右の認定に承服できない。(ちなみに、原決定の右理由中に、「……熱による収縮……」と記載されているが、金属は加熱により膨張し、冷却により収縮するのが一般であるから、「熱による収縮」は「冷却による収縮」と訂正されるべきである。)
ステンレスと耐摩耗部材とをろう付けした後に冷却により収縮が起きると、耐摩耗部材の収縮量よりもステンレスの収縮量の方が大きいから、耐摩耗部材に反りやひび割れが生じる。そのような反りやひび割れを防ぐ対策のひとつはろう材の間に薄い銅板を入れることである(別紙第一参照)。銅は延性に富んでいるから冷却する際にステンレスの収縮量の方が耐摩耗部材の収縮量より大きくても銅板自身が変形して収縮量の相違を吸収する。すなわち、銅板の一方の面と他方の面との間に収縮量の相違が存在しても銅板は収縮量の相違に対する緩衝材(クツシヨン)として機能するから、耐摩耗部材に反りやひび割れが生じるのを防ぐことができる。
耐摩耗部材に反りやひび割れが生じることは非常に困ることであるから、そのようなことのないように当業者はろう材の間に薄い銅板を入れる等の対策を講じているのであり、そのような設計上の配慮をすることは技術者として至極当然のことである。
フエライト系ステンレスと耐摩耗部材とをろう付けする場合でも、フエライト系ステンレスの収縮量の方が耐摩耗部材の収縮量よりも大きいから、もし、ろう材の間に薄い銅板を入れる等の対策を講じなければ、耐摩耗部材に反りやひび割れが生じるのは必定である。
ろう材の間に入れた銅板は延性に富んでおり、銅板の有する延伸性によつて冷却時の収縮量の相違は吸収されるから、ステンレスがフエライト系であつても、オーステナイト系であつても、耐摩耗部材に反りやひび割れが生じるおそれはない。
もともと、本件で取り扱われている遠心分離機は腐食性の烈しい雰囲気中で稼動できることを狙つたものであつて、そのために高価なオール・ステンレス製にしてあるのに、ことさら、債務者製品の裏金61だけを耐食性の劣るフエライト系にすることは実際の技術上の観点からみて有害無益である。
したがつて、債務者の誤つた主張を鵜呑みにした上で導かれた原決定の結論には承服できない。
二、疎乙第一号証に対して
債務者は原審において疎乙第一号証(実公昭六二―三二五九九号公報)を提出したが、その提出の趣旨が不明であり、次に述べる理由により同号証は本件とは何の関係もないものである。
疎乙第一号証の物質移動装置は「これらチツプ取付部材と押え板との間に上記係合受部と係合する係合突起部を有する上記チツプを回転羽根の周方向にスライド自在に係合させて取付けたこと」(同号証第1欄8~11行)を必須の構成要件として有しており、それに基づいて「チツプを回転羽根の周方向にスライドさせることができるので。チツプ取付部材又は押え板の一箇所を取外すだけで広範囲のチツプの交換を容易に行うことができる。」(同号証第6欄43行~第7欄3行)という効果を奏する。
これに対して、債務者製品は、別紙物件目録第7図に示すように端面部止金63には脚部(別紙第二参照)が形成されているから、裏金61はこの脚部により押さえられて円周方向に移動することができない。(裏金61が円周方向に不動であることは債務者が原審において提出した検乙第二号証(債務者製品)により確認されたい。)
すなわち、債務者製品は、疎乙第一号証にいう「上記チツプを回転羽根の周方向にスライド自在に係合させて取付けた」という要件を欠いているから、疎乙第一号証の考案の実施品ではない。
三、予備的主張
仮に、原決定の理由にいう、「別紙目録の記載及び疎明資料によれば、裏金61は、WC焼結チツプ60と直接蝋付けされる際の熱による収縮を少なくするため、熱膨張率の小さいもの(例えばフエライト系ステンレス)を使用することが望ましいが、これは溶接性・耐食性の点で劣るため、スクリユー・コンベヤ26に直接溶接しない方が望ましいこと、また、平面部止金62及び端面部止金63は、WC焼結チツプ60と直接蝋付されず、スクリユー・コンベヤ26と溶接するものであるため、熱膨張率は大きくても溶接性・耐食性に勝るもの(例えばオーステナイト系ステンレス)を使用することができる」(原決定の第十丁表三行以下)という作用効果が認められるとしても、債務者製品は本件発明を「利用」(特許法七二条)しなければ実施をすることができないものであるから、本件特許権を侵害するものであることに変りはない。
別紙第一
<省略>
別紙第二
<省略>